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2016年08月18日

「南向きリビング」って本当に必要?

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「南向き信仰」という言葉もあるくらい、南向きのリビングがある家を好む傾向が強い日本人。確かにメリットは多いのですが「ライフスタイルによっては、そうこだわる必要もありません。それに南向きでなくても明るいリビングはつくれますよ」と建築家の佐川旭さん。その理由をおうかがいしました。

■ライフスタイルの変化が南向き信仰を減らした?

洗濯乾燥機を使う方なら「南向き信仰」は薄い?

南向きのメリットは?と聞かれれば「日当たりが良く明るいこと」と答える人は多いはず。確かにこれはほとんどの人に当てはまる長所です。もともとは農家が野菜を干して保存食をつくるため南向きの方角に縁側をつくったことが、南向き住戸が好まれるようになった遠因とも言われています。

「ただし、土地に余裕がある郊外ならまだしも、多くの人が暮らす都市部の住宅では、東南角とか南道路の敷地を必ず確保できるわけではありません。また、ライフスタイルの変化で、家族がリビングで過ごす時間が昔に比べると短くなりました。そのため、南向きで日当たりが良く快適な空間であることが、かつてほどは求められなくなっています」と佐川さん。

「現代では、各々が個室で過ごしていても、普段からネットを駆使しているおかげで“何となくつながっている感覚”を共有している家族もいます。そうした場合は、リビングが南向きで20畳以上などと広く、日当たりが良くなくてもいい。あるいは、リビングを家族全員で使うのはみんなで朝食を食べる時のみだったら、東向きでいいかもしれません。さらには洗濯ものや布団を外に干す習慣のない人や、日中家を空けていることが多い人にとっては、南向きであることは、それほど意味を持たないと言えます」

とはいえ、やっぱり家の中はできるだけ明るいほうが、快適に感じるのもまた事実。リビングが南向きではない住宅では、どんな工夫をすれば屋内に明るさを取り込めるのでしょうか。

■南向きでなくても室内を明るくするテクニックとは

リビングが南向きでなくても天窓があれば室内はかなり明るくなる

例えば、西側に最も開口部が大きい窓が向いている家の場合。冬はともかく、夏の西日は暑く、エアコンを使っても室温や不快指数は上がりそうなイメージがあります。

「でも、通風を考慮した高断熱・高気密住宅にし、窓には複層サッシで断熱ガラスを用いると、熱が遮断され明るさだけを採り込むことが可能です。さらに入ってきた明るさだけを室内の白壁に反射させれば家の中はかなり明るくなるのです。高断熱・高気密住宅は室内の湿度差を少なくし、さらに間取りの自由度も高めるので光を自在に拡散してくれるのです。

夏の西日が気になるのなら、外付け型ブラインドで熱をシャットアウトするのも有効な手法です。またトップライト(天窓)もおすすめですが、これも夏の熱対策を十分に考えて設けることがポイントです。

「近年、防水技術の発達もあり、トップライトも普及しています。リビング上が吹き抜けになっている家にはよく見られるようになりました。リビングが南向きでなくても、トップライトから光を屋内に落とすことができれば室内はかなり明るくなります。光の強弱があまりなく、光度が安定している北側方向に向けてトップライトを設け、そこからの光を室内に採り入れることもできます」

■南向き住戸にはない得難いメリットを魅力に

室内を明るくするための採光計画を考えることが、家に対する愛着を育む

南向きではない住宅には、南向き住宅では得難いメリットもあります。

それは何といっても土地価格が比較的安いこと。少なくとも人気の東南角、南面道路に比べれば間違いなくリーズナブルです。予算重視で家を選ぶ方にとっては魅力的でしょう。

「そこで浮いた予算を先ほど述べた設計の工夫に回すという考え方もあります。西日をいかに室内に取り込むか、天窓の角度や位置をどのようにすれば、最も効果的に光が入って来るか。それをハウスメーカーや建築家と一緒に考えることで、家づくりは俄然楽しくなるでしょう。そうやってこだわった家は、住み始めてからの満足度も高いはず。南向き住宅にはない“個性”もあり、愛着もひとしおではないでしょうか」

■各方角の「光の質」を理解することが大切

西日効果を最大限に活かした東京駅丸の内側の意匠

最後に佐川さんから“南向きである・ない”以前の問題として、光の質を理解することが大切です、というアドバイスをいただきました。

「光の質は方角によって異なり、それぞれにメリットをもたらします。例えば、朝の起床時、東向きの部屋に差し込む朝日を目にすると脳の体内時計の針が進み、活動状態に導かれます」

日中、健康的に過ごす上で重要な役割を果たすのが東から差し込む朝の光というわけです。

「確かに南の光は強く、明るいのですが、強弱があり、人間はその変化に付いていかなければなりません。その点、西の光は、冬には心を落ち着かせてくれる効果をもたらします。だんだんオレンジ色になっていって、そろそろ体を休めなさいよ…といったメッセージを発するんですね。ちなみにその効果を利用したのが東京駅の丸ノ内側の外壁に張られた赤レンガ。オレンジ色の西日がレンガに当たった時、レンガの赤がより美しく映え、人の気持ちを穏やかにすることを見越してあのような意匠にしたとも言われています」

この記事で紹介した工夫を実践したり、ご自身のライフスタイルや家での過ごし方を見直すことで、家選びの選択肢はぐっと広がるかもしれませんね。

参考資料:「朝日、体内時計」

一級建築士

佐川 旭(さがわ あきら)

住宅だけでなく、公共建築や街づくりまで手がけるベテラン建築家。住まいや間取り に関する多くの著書を手掛けるほか、講演やテレビ出演など精力的に活動している。All About「家を建てる」ガイド。